「川のほとりの大きな木」あらすじ・結末と本の背景にあるもの

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天然痘がテーマの児童書「川のほとりの大きな木」のあらすじと結末、注目すべき本の背景について記載します。善とは何か、悪とは何か。舞台となったリベリアを取り巻く情勢や差別について知ってから読むと、むしろ大人の方が深く考えてしまう一冊です。

川のほとりの大きな木
クレイトン・ベス 著 / 秋野翔一郎 訳
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本のあらすじ

舞台はアフリカにあるリベリアの、町から少し離れた一軒家。ある夜、モモという少年の家に、赤ちゃんを連れた母親マイマとマイマの母があらわれ「一晩泊めて欲しい」と懇願します。モモの祖母は反対しますが、モモの母親は反対を押し切って3人を招き入れます。次の日、モモ一家が目を覚ますと、連れてこられた赤ちゃんだけが残され、マイマとマイマの母はいなくなっていました。実はこの赤ちゃん、当時アフリカではまだ撲滅されていなかった天然痘にかかっていたのです。

過去に天然痘を患い、失明までしているモモの祖母は、娘や孫を守るために赤ちゃんを捨ててしまおおうと主張します。しかし、モモの母親は、自分も天然痘になるリスクをおかして赤ちゃんを看病する決意を固めたのです。

リベリアについて

リベリアは、西アフリカに位置する国で、国土は日本の3分の1ほどです。首都はモンロビア(Monrovia)です。

アメリカで解放された奴隷たち数十人がアフリカに戻り、自由(Liberty)に由来する「リベリア(Liberia)」という国名で独立を果たしました。

しかし、アメリカからアフリカに渡った「アメリコ・ライベリアン(Americo-Liberian、アメリカ黒人)」と現地部族出身者の対立などが原因で1989年以降断続的に内戦が続いていました。2003年に国連が介入し、2005年の選挙の結果、2006年にサーリーフ氏がアフリカ初の「選挙で選ばれた女性大統領」になりました。サーリーフ氏は、リベリアの平和構築、社会・経済開発の促進、女性の地位向上への貢献が認められ、2011年にノーベル平和賞を受賞しています。

日本人医師蟻田功氏の尽力もあり、20世紀後半に、リベリアからも天然痘が撲滅されました。しかし、他のアフリカ諸国と同様に感染症の大きな影響を受けており、2014年6月以降、隣国ギニアからエボラ出血熱の流行が拡大し、リベリアも甚大な社会的・経済的被害を受けました。

本の結末

赤ちゃんを看病しはじめて数日後、隔離の努力も虚しくモモが天然痘で高熱を出し、意識を失ってしまいます。意識が完全に戻った時にはモモの小さな妹はすでに天然痘で息を引き取っていました。

モモの母親も天然痘に罹患し、全身が見るに耐えない腫れ物に覆われてしまいす。最初は怖がって近づかなかったモモの叔母(モモの母親の妹)も、看病に加わったことで、モモの母親はなんとか一命をとりとめたのでした。看病の途中、叔母は、モモの家をマイマに教えたのは自分だと告白します。「神の名において、自分と同じキリスト教徒のマイマたちを夜の森に放り出して死なせることができなかったのだ」と。

モモの母親が元気になって少しした頃、市場で出会ったマンディゴ族(イスラム教徒)の女性が、モモの母親にのこる大きな痘痕を、ひとつひとつ慈しむように指で撫でたのでした。

感想

この本は児童書ですが、大人になってから読んでも学ぶことは非常に多いと思います。モモの家に赤ちゃんを放置した2人や、モモを追い返した町の人々を「悪」とは言い切れない、感染症の悲しさ、難しさを感じます。

モモを追い返した町の人も、モモの家の近く(感染しない程度の距離)まで毎日食べ物を持ってきたり、隔離部屋を作るための資材をみんなで準備してくれたりしています。

では、赤ちゃんを置き去りにしたマイマたちはどうでしょう。物語の最後、マイマの母親が、自分が置き去りにした赤ちゃんを返してほしいと言ってやってきます。「マイマも天然痘で亡くなり、自分にはもう何も残っていないのだ」と。天然痘により、住む町を追い出された挙句、娘と孫を失うことになった老婆もまた、悲しい感染症の被害者なのです。

自分の赤ちゃんが天然痘にかかった時にどうするか、という質問にモモの祖母は、穴を掘ってその子を埋めると答えます。
マイマは、自分で手を下すことはできず、でも自分の命を懸ける決意もできず、見ず知らずの人の家に自分の子供を放置するという選択をしました。
モモの叔母は、自分や村の人の命を懸けることはできない一方で、マイマを見殺しにすることもできず、モモの家を教えました。
モモの母親は、自分の命も、自分の子供の命をも懸けて、見ず知らずの人の赤ちゃんを看病しました。
「自分が罹患するのは怖いが、手を下すこともできない」という気持ちを糾弾することはできないし、自分と家族を危険に晒してまで看病を決意したモモの母親の選択は必ずしも褒められるべきものなのだろうかという疑問も残ります。

感染症対策として何が正しいのかはっきりした答えが見出せない今こそ、子供から大人まで読んでみてほしい一冊です。

川のほとりの大きな木
クレイトン・ベス 著 / 秋野翔一郎 訳

※アイキャッチ画像に適した画像がなかったので、空の写真を使いました。特に意味はありません。

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